Tokyo Jewelers発行人 松原 信
コンプライアンス、略して「コンプラ」という言葉がおおはやり大流行(おおはやり)である。 Complianceを日本語に訳して「法令順守」というそうだ。企業経営者たるもの、「法律」を舐めてかかるととんでもない事になる、つまり、とんでもない目に遭ったかつての”名経営者”堤義明や最近のホリエモンらの失脚劇あたりから、この言葉がはやり出した。しかしこれが、実はトンデモない誤訳なのである。―――その言葉の原形complyは、外資系企業或いは貿易業経験者なら日常的に使っていたコレポン(通信文書)上の常套句で、「相手の意志に従う、尊重する」といったソフトな言葉だ。更には、レターの書き出しにIn compliance with〜とタイピングすれば、「〜の要求に応じて」という意味の慣用表現に過ぎない。
影も形もない「法律」の意味を最初にこの言葉に被せたのは、一体どこのどいつだろう? 大方、法当局の意を汲んだ大マスコミの誰かが、ハードな意味を伝えるのにソフトなオブラートで包んだつもりで、カッコよくカタカナ・マスコミ語に変えたのに違いない。この意味不明の言葉使いを聞いた外国人からは、”パードゥンミー?”と聞き直されるのがオチだろう。とも角とんだ和製英語である。
ルールや法律は破られるためにある、と皮肉られたのは古き良き昔の話で、どっこい今は、法律は腕づくでも・・・・守らせるためにあるようである。「コンプライアンス」なる和製英語は、そんな匂いがプンプンする嫌な言葉だ。
「犯罪収益移転防止法」なるキッカイな法律が、この3月から発効した。通称「マネロン法」と呼ばれるこの法律は、マネーロンダリングやテロ資金流入防止という大義の名の下に、当局が一体何を狙っているのか極めて不可解な新法である。偽装設計完全排除の名の下に、昨年6月施行された「改正建築基準法」が、結果的に新築着工件数の激減を招き、日本の基幹産業・建設業界をどん底に陥れた例を引くまでもなく、さじ匙加減を心得ない政治家・役人どもの浅知恵が、正直でまっとうな民業までも区別なく厳しい法規制でじわじわ縛り、猛烈な淘汰の嵐が吹き荒れている業界例は、枚挙に暇がない。民業を支援すべき公僕たる諸官庁が、あろうことか率先して民業圧迫に走り、あちこちで”官製不況”の主役を演じているのだ。
我が宝飾業界も例外ではない。利息制限法及び出資法見直し・グレーゾーン金利撤廃、特定商取引法(特商法)改正の動きで、頼みのローン販売に急ブレーキがかかった矢先の宝飾界は、矢継ぎ早に今度は上記マネロン法の標的になった。一見まともに聞こえる“200万円以上の商取引に客の本人確認が必須”という条項一つとっても、考えようによっては、これは宝飾ビジネスの根幹を揺るがしかねない一大”事件”である。
決して安価ではない宝飾品という商材は、良くも悪くも「見栄の代償、虚栄の産物」としての付加価値を伴って、歴史的に人々の生活の陰日向で絶妙な役回りを演じて来たからだ。特に百万単位の買い物をキャッシュですますリッチな人々にとって、本人確認だ、取引記録だ、などといった無粋な購入手続きは馴染まない。宝飾品は通常の消費財とは別の価値次元で動いて来たからこそ、古今東西、人類史上決してすた廃れることなく営々と続いてきた産業なのである。
しかし、人類史の永さに等しい永久不滅の宝飾産業も、この国では少々事情が違うようだ。ただでさえ、空前の地金相場高騰、吹き荒れる輸入品攻勢の嵐、といった大難題を背負う今日の宝飾界に対して、まさに追い討ちをかけるように、次々と繰り出してくる新法ラッシュは、宝飾界の民をますます窮地に追い込む。また不幸にも、それらの新法に対抗して、超法規的救済策としてのセーフティネットの構築を試みようなどという、殊勝な政治家や政治勢力、官僚は一向に現れない。
新法によって壊滅の危機にある貸金業界やパチンコ業界のように、この宝飾界も最早社会から見捨てられる運命にあるのか? 宝飾業界は法やモラルに逆らう輩が相対的に多いのは事実だが、だからといって、社会貢献度や公的存在意義が薄いという短絡的な理由で、いずれ上からの力で息の根を止められる命運にあるのか? 考えるだけでコワイ話である。
法の力に克つには、同じく法の力しかない。それは、法令さえ守れば何をしてもいい、という“コンプラ悪用”のすすめではない。―――今そこにある法律を”悪法”と指弾するためには、それに勝る”良法”を作る側に回るほかない。特定利権に偏る政治権力とそこに・・・つるむ行政権力との間で、得てして悪法は醸成されるが、だとすれば、その両者の間を断ち切るのがもっか目下の最短の道だ。他でもない、それは市民公選による政権交代への道である。 (季刊Tokyo Jewelers誌 第52号掲載)
■本稿は、雑誌TokyoJewelersの毎号巻末頁に掲載する、発行人書き下ろし記事からの転載です。第50回以前の「松原レポート」をご希望の方は、同誌バックナンバーをご購入いただくか、同誌編集部まで問合せ下さい。
Tokyo Jewelers編集部
by 柏書店松原
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スリランカで産出されるトパーズの大半は無色です。稀に黄色や青、青みがかった緑が取れる場合があります。しかしその青は限りなく透明に近く、一般的に「ブルートパーズ」としてコロンボの店頭で売られているものは、無色のトパーズを照射し、更に加熱して青にしたものばかりで、おそらく海外から入ってきたものだと思います。自然界にこのような色は存在しないだろう?と思われるような青さのトパーズから、アクアマリンに似せて作ったのでは?と疑ってしまうような青まであり、値段もアクアマリンと比べて大変お手頃となっています。アクアマリンとトパーズを見分ける方法は、最初の段階ではチェルシー・カラー・フィルターを使い、色の反応(アクアマリンなら緑っぽく見え、トパーズは無色)を簡単に調べます。しかし中にはトパーズでも緑っぽく見えるものもあるので注意が必要です。また比重に関して言えば、アクアマリンは2.65から2.80、トパーズの場合は3.5から3.6とトパーズの方が重いのですが、これは多くの裸石を取り扱った経験がなければ、手で持っただけで判断するのはやはり難しいでしょう。ルーペなどで内包物を見ることも可能ですが、これも経験が必要です。
トパーズは宝石学では斜方晶系に属し、一方向に完璧な劈開(へきかい)があります。つまり衝撃が加わりヒビなどが入る場合は、真っ二つに割れることがあります。(通常のジュエリーとしての使用では問題ないと思います。) その点を理解した上であれば、トパーズは硬度が8と高く輝きもきれいなので、ジュエリーとしてペンダントトップにするなど、大きさを楽しめる宝石になると思います。
希少性が高いトパーズとして、ピンクやシャンペンカラーのインペリアル・トパーズが有名ですが、残念ながらスリランカでは産出されません。(これらは主にブラジルで産出されます。)
片山新子、FGA
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ジルコンという音の響きからダイアモンドのイミテーションにされることもあります。しかし、硬度が6.5から7.5とダイアモンドと比べて低い為、10倍レンズで覗くとファセットにキズなどがあり、簡単に見分けがつきます。スリランカのマータラで採掘される無色のジルコンは、「セイロンダイアモンド」と呼ばれています。しかし、こう言われても本物のダイアモンドだと思って買う人はいないでしょう。最近は無色のジルコンも発見されにくくなりました。
スリランカ産のジルコンは、成分に放射性のトリウムとウラニウムが入ることで、結晶格子が崩壊している「メタミクト(ロー・タイプ)」構造のものが多いです。その為、色も緑、茶色、赤味やオレンジがかった茶色のものが多く、それらを加熱処理すると、結晶格子が再生され、「ハイ・タイプ」になります(自然界にもハイ・タイプのものが存在します)。色は、青、オレンジ、無色などで、カンボジアなどでは茶色のジルコンを熱処理し、すばらしい青色に変化させています。この青色をさらに酸化状態で熱を加えると、輝かしい黄金色に変わります。ちなみにジルコンの語源はペルシャ語で「金色」です。
スリランカ産のジルコンは熱処理をしても鮮やかな青に変わるものはないと思われますが、黄色ぽい茶色のジルコンを加熱することで、キャッツアイのような一条の光(シャトヤンシー効果)を作りだすことができます。これは、「ジルコンキャッツアイ」と呼ばれていますが、あまり宝飾向きではないでしょう。
日本ではあまり人気のない宝石ですが、強い輝きと、硬度さえ理解しておけば、宝飾として充分魅力的だと思います。歴史的にも古い宝石なので、「ジルコンを身につけると、知恵、名誉、富をもたらす」と言われ、信じられていた時代もあったそうです。真意のほどは知りませんが、もう少し価値が見直されてもいいのでは?と私が勝手に思っている宝石です。
片山新子、FGA (英国宝石学協会、宝石鑑別資格)
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スリランカで産出されるトルマリンの色は、黄緑、深緑、蜂蜜のような茶色が多く、まれに青や明るい緑色も発見されますが、ルベライトと呼ばれる赤やピンク、バイカラーのウオーターメロンなど人気の高い色は産出されません。店頭でトルマリンは多様な色が販売されていますが、大半はアフリカや近隣諸国から輸入されたもので、値段も店によってかけ離れています。
スリランカ産出のトルマリンは、その見た目の色や多色性などでジルコン、コーネルピン、シンハライト、アンダリュサイトに間違えられる場合があります。紅茶の産地であるウバで産出されるトルマリンは「ウバイト・Uvite」と呼ばれています。希少性が高いものでは、キャッツアイのように一条の光(シャトヤンシー効果)がでるトルマリンも産出されます。
金褐色のものも産出され「ドラバイト・Dravite」と宝石学的に呼ばれますが、通常の宝石業者はルベライト以外はトルマリンとしか呼びません。
無色のトルマリン(カラーレス)は無色のスピネルと同じように大変希少性があります。
※写真はラトゥナプラーでのひとこま。のどかな田園風景の中、所々で宝石採掘用に穴(井戸のよう)があけられ、機械や人力で鉱夫が作業しています。
片山新子、FGA
最近、産地ラトゥナプラに行った経験も書き込んでいます。
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ガーネットと言えば、あの深紅の薔薇のような赤色をイメージする人が多いと思います。
宝石学的にガーネットは6種類に分けられます。
結晶系は同じですが、基本となる珪酸塩に含有する成分(元素)が違います。
- アルマンディン → 鉄とアルミニウム
- パイロープ → マグネシウムとアルミニウム
- スペサルティン → マグネシウムとアルミニウム
- グロシュラー → カルシウムとアルミニウム
- アンドラダイト → カルシウムと鉄
- ウバロバイト → カルシウムとクロム (宝石としてはあまり扱われない)
その為、赤だけに限らず、オレンジやピンクがかった紫、緑色まであり、中でもデマントイド(アンドラダイト)と呼ばれる緑のガーネットはダイアモンドよりも分散が高い為、とても強い輝きがあります。同じ緑でも一般的に「ツァボライト」(グロシュラー)は、デマントイドよりも多く市場に出回っていますが、どちらも赤いガーネットと比べて値段がかなり高いです。スリランカでは残念ながら緑のガーネットは産出されません。しかし、アフリカで産出されたものが輸入されて店頭で売られています。同じグロシュラーで、スリランカで代表的に産出されるものに「ヘソナイト」があります。シナモンストーンとも呼ばれ、褐色のオレンジが暖かみのある色あいを出しています。特徴的な内包物として、スワールと呼ばれる渦のような、糖みつのようなものが見られます。良質なものは赤味と透明度が強く、魅力的でカラット当たりの値段も通常のヘサナイトと比べて高いです。スペサルティンも黄色味が強いオレンジから赤味のあるオレンジまであり、ヘサナイトと様相が似ているものもあります。スリランカの南部、ハンバントタは塩業で有名ですが、その海岸は山間部から流されてきたヘサナイトガーネットの粒(砂のような状態)が多く混じって砂浜が赤っぽく見え、大変おもしろいです(その時のブログ)。
鉱物名ではないのですが、「薔薇の花びら」という意味を持つ、ロードライトガーネット(鉱物的にはアルマンディンとパイロープの中間的なもの)は紫がかったピンク色をしており、中にはピンクサファイアと見間違えてしまうものもあります。簡単な鑑別の方法は、二色鏡でのぞくと、ガーネットは単屈折の為1色しか見えないけれど、サファイアは複屈折で2色に見えます。
さて、緑以外は産出量も多いガーネットですが、珍しいものとしては、カラーチェンジガーネットがあります。これはパイロープとスペサルティンが混ざったもので、自然光の下では緑がかった色、白熱光では紫から赤のような感じになります。高級なアレキサンドライトに比べたら値段は下がりますが、希少性が高いものです。また、同じ種類で、青色に色変わりするものが1996年、スリランカから発見されたそうです。(自然光で暗い青、白熱光では青紫)でも、その後の産出がないので、まさに青いガーネットは「幻のガーネット」ですね。
片山新子、FGA
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ダイヤモンドの硬度は10で地球上最も硬い物質であると言われます。これはモースの硬度計というスケールに従った表現です。モース硬度は鉱物と鉱物をこすりつけて硬度の大小を決めていますが、あくまでどちらが硬いかという相対的硬度を表しているに過ぎません。トパーズとコランダムの硬さとコランダムとダイヤモンドの硬さの差はどれくらいかというとよくわからないのです。
これを絶対的数値で表すことができないかと考えて考案されたのがビッカース硬度やヌープ硬度です。ビッカース硬度はハードプラチナが一般のプラチナより硬いことを説明する際よく使われており、絶対硬度計の中では最も著名ですが、主に地金の硬さに使用されるケースが多いので宝石での比較はヌープ硬度の方が適当と思われます。
モース硬度とヌープ硬度の比較をしてみます。
モース硬度とヌープ硬度比較表
ダイヤモンドがいかに硬いかお分かりになると思います。数値的に言ってダイヤモンドの硬さはコランダムの3倍にも達するからです。と同時にダイヤモンドの中でもその硬度はかなりの差があります。ダイヤモンドの硬度の差は結晶の状態や産地、内包物によると考えられています。正八面体のきれいな結晶よりも双晶の方が硬いことは知られていますが、産地間の硬度の差も大きいものがあります。最も硬いと言われているのがアーガイルを筆頭とするオーストラリア産の原石です。一方、ロシアの原石は柔らかいと言われていて、同じキズを取るのに1/3から1/4の時間しかかからないと研磨業者は話しています。
硬さと強さは違う
ダイヤモンドは他の物質に比べ、飛び抜けて硬いということは事実です。しかし、硬いということと、衝撃に強いということはイーコールではありません。ダイヤモンドは硬いから割れたりしないと思っていると痛い目にあうことになります。ダイヤモンドよりも硬度が低くて衝撃に強い宝石は沢山あります。
佐野 良彦
メレ ダイアモンドはこちらで購入出来ます(サノ・トレーディング取扱い)
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スピネルをサファイアやルビーと見間違えることがあるかもしれません。
とても綺麗なブルーサファイアだと思ったら、実は合成スピネルだったという話は、観光客を相手にした路上の土産物店ではあり得る話です。
過去にスピネルと思われていたものにターフェアイトという宝石があります。
スピネルの科学組成はMgAl2O4 硬度は8 比重3.60
ターフェアイト BeMg3Al8016 硬度は8 比重3.61
鑑別に欠かせない屈折率も非常に近いため、同じ宝石と間違えられていたのも無理はありません。では、このふたつの宝石を区別するにはどうしたらいいでしょう?
まず重要な違いは、スピネルは「単屈折」であり、ターフェアイトは「複屈折」であるということです。例えば、ぺリドットやジルコンなど複屈折の大きい宝石は、肉眼やルーペで宝石を覗いた時に、ファセットが2重に見えます(だぶって見える感じ)。しかしターフェアイトの場合、同じ複屈折でも、そのふたつの屈折の差が小さい為、ルーペで確認するのは難しく、屈折計や偏光フィルターで丁寧に調べなければなりません。また、顕微鏡で特徴ある内包物を確認していくことも大切です。スピネルに比べ、ターフェアイトは希少性が高く、値段もかなり高めです。どちらもスリランカで産出されます。スピネルはどの宝石店にも置いてありますが、ターフェアイトを扱っているお店はほとんどないです。
さて、そんな希少なターフェアイトよりもさらに希少性が高いマスグラバイトが現われました。(宝石質のものは1993年頃に登場)
化学組成は、(Mg,Fe,Zn)2 Al6BeO12 (全国宝石学協会の資料参考)
主成分はターフェアイトと同じ、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウムとなります。
これまでの産出はスリランカが主でしたが、近年アフリカのタンザニアからも宝石質の良質なものが発見されるようになりました。英国宝石学協会の最新ジャーナルにも詳しい鑑別方法が取り上げられ、世界の関心の高さが伺われます。ターフェアイトよりも更に希少で、値段もそれ以上に高い為、スリランカで産出されてもすぐに外国の宝石フェアに流れてしまい、まずスリランカ国内の宝石店で見かけることはないでしょう。
スピネルをターフェアイトやマスグラバイトと言って売りつけることはないと思いますが、ターフェアイトもマスグラバイトも鑑別がとても難しい宝石なので、購入する時は鑑別機関等できちんと鑑別されることをお薦めします。もし、過去にターフェアイトを手に入れていたなら、もしかしたらそれはマスグラバイトかもしれません(笑)。ターフェアイトとマスグラバイトの区別は鑑別機関の高度な鑑別機械でなければ、判別できません。
片山新子、FGA
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赤く美しいスピネルは、見た感じだけではルビーと区別をするのが難しい宝石です。
スピネルは酸化アルミニウムと酸化マグネシウムの化合物で、ルビーやサファイアといったコランダム(酸化アルミニウム)と同じ場所で産出されることが多く、歴史的にもコランダムとして扱われていた時代もありました。英国王室の王冠に使われているルビー が実はスピネルであったという話は有名です。
硬度も8とコランダムに次ぐ硬さで、カットと研磨をされた後は大変輝きの美しい宝石になります。また、結晶も等軸晶系の正八面体の美しい形をしており、中でも完璧な結晶は「エンジェル・カット」と呼ばれ、コレクターには大変魅力的な宝石です。
スピネルの色は赤だけに限らず、青、ピンク、紫、青緑、藤色、緑がかった黒や無色とバリエーションが豊富で、スリランカでは深い緑色したものをセイロナイト(スリランカの昔の呼び名セイロンから由来)と呼んでいます。市場で価値があるものは、やはりルビーやサファイアのような赤や青ですが、中でも天然のコバルトが入り込んで青色になったものは「コバルト・スピネル」と呼ばれ値段も通常の青いスピネル(鉄だけが起因)よりも高いです。また、全く不純物を含まない無色のスピネルは大変稀です。ここスリランカでも無色(カラーレス)スピネルを置いている店は珍しく、値段も他のスピネルよりかなり高めになっています。紫色をしたスピネルで、太陽の光では青紫をしていたものが、白熱光の下で赤紫に変わる、「カラーチェンジ・スピネル」もあります。また、スター効果(石の真ん中に線が現われる)のある「スター・スピネル」は6条や4条の光が現われますが、スターサファイアと比べて産出量が少なく、地の色もどちらかというと暗い感じになるので、宝飾として扱われるよりは、コレクターを対象としてカット研磨されています。
さて、スピネルは加熱や放射といった処理はされていないのですが、鑑別で気をつけないといけない点は、「合成スピネル」との区別です。拡大検査で内包物としてジルコンなどの他の鉱物が見つけられれば天然の証なのですが、フラックス法で作られた合成スピネルの液状のようなインクルージョンは顕微鏡で形状やフラックスの欠片を慎重に見なければ、天然の液状と見間違えてしまいます。次回はコランダム以外でスピネルと間違えられやすい鉱物について紹介します。
片山新子、FGA
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クリソベリルという名前は聞き慣れないかもしれませんが、これは鉱物名で、その中でも宝石の真ん中に一条の光が現われるものを「キャッツアイ」、色変わりを見せるものを「アレキサンドライト」と呼び、大変に高級な宝石として扱われています。
スリランカではこのどちらの宝石も産出されますが、アレキサンドライトは、産出量も少なく、特有のカラーチェンジも太陽の下では若草色、ライトの下では赤紫かラズベリーの赤といった色変わりを見せます。残念ながら顕著に色が変わるものは少ないです。もしはっきりカラーチェンジするものが店頭で売られていたとしても、
- それは本当にスリランカ産なのか?
- カラーチェンジタイプの合成サファイアではないか?
- カラーチェンジガーネットではないか?(これも希少ではありますが)
といった点を疑ってしまいます。しかし、ブラジル産のような高級アレキサンドライトは大変高価な為、少しでもカラーチェンジのするスリランカ産が予算内で購入できるのであれば手にいれてみるのもいいのではないでしょうか。
スリランカのお店で、日本人観光客が熱心に勧められる宝石のひとつに、キャッツアイがあります。猫目石として有名な宝石です。石の真ん中にひとつの光の帯が現われ、本物の猫の目のようでおもしろいです。クリソベリル・キャッツアイは細長い液体のチューブ状の含有物が同じ方向に並んでおり、それをカボションにカットして上から光をあてると、一条の光となって現われます。このことを「シャトヤンシー効果」と呼びます。この効果はクリソベリルに限らず、クオーツやトルマリンなど、多くの宝石にも見られますが、市場で、キャッツアイと単独で呼ばれる場合はこのクリソベリルのことを指します。最高級品は蜂蜜の色をしており、過去に展示会で見たことがありますが、深みのある茶色の宝石の真ん中にくっきり光が一条現われ、カラットも大きかった為か威厳にみちた宝石でした。また、アップルグリーンと呼ばれる緑色も希少性が高く、高級品として扱われています。もし、本当に良いキャッツアイをお探しであれば、スリランカで見つけることができます。高級品ではないのですが、よく見かける色に、うすい黄色、褐色した茶色のものがあります。1カラット未満の小さいものでも、目がはっきり現われ、値段も手頃ですし、若い人にも似合うジュエリーになるのではないでしょうか。余談ですが、先日クリソベリルに似たキャッツアイを見つけました。10カラットほどあったのですが、値段が安く、一条の光がぼんやりとしています。鑑別をしてみると、ジルコンでした。
アレキサンドライトにシャトヤンシー効果の現われる「アレキサンドライト・キャッツアイ」というものがあります。(残念ながらまだ見たことがありませんが)
さて、高価なふたつの宝石を説明致しましたが、カラーチェンジもしないで、猫のような目もでないものを、そのままの鉱物名「クリソベリル」と呼びます。色は緑、黄色、茶色がかった黄色、黄金のような色があります。クリソベリルは硬度が8.5とコランダム(サファイア・ルビー)に次ぐ硬さがあり、輝きが強く、大変魅力的な宝石です。残念ながらスリランカ産のクリソベリルは鉄分を多く含んでいて、色がやや褐色した感じのものが多いです。しかし中には美しいゴールドのような輝きのものもあります。それぞれの色を比べてみると、微妙に色が違って味わいがあります。自分の好みに合うものを探して、それを指輪にするととても印象の強いものが出来上がると思います。
個人のブログを楽天で書いています。宝石学の勉強やスリランカの生活など、どうぞ覗きに来てください。
スリランカ宝石留学物語
片山 新子、FGA
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チャールズ皇太子が婚約の時にダイアナに贈った指輪はスリランカ産サファイアといわれています。ブルーサファイア(コランダム)はスリランカの代表的な宝石のひとつで、観光客を相手にした宝石店では、目につくところにブルーサファイアのジュエリーやルースが置かれています。しかし、非加熱サファイア(ブルーの色に限らず)の産出量は減っており、ギウダと呼ばれるガソリンのような茶、黄色味かかった白いコランダムを加熱して色を出しているものが大半です。この加熱処理はその宝石に潜在的にあった能力を引き出し、色も安定します。宝石の産地であるラトゥナプラ近郊では、加熱工場が多くあり、家庭内工業といった感じで昔ながらの機械(Toda Furnace, Lukmini Furnace)を使って、1700−1800度の温度で熱処理を行っています。加熱業者の研究と努力で、本来ならば宝石として扱われないギウダが、美しい色に変わっていくのは感慨深いです。
しかし、中には表面を拡散処理されたものやベリリウム処理をしているのではないかと思われるサファイアを見かけることもあります。これらは、海外から持ち込まれるケースもあり注意が必要です。また最近では、マダガスカル産(アフリカ)の非加熱のブルーサファイアや加熱処理されたものも増えており、ベルワラ(宝石のディーラーが多く集まる街)の業者も定期的にマダガスカルまで買付けに行くとのことです。
スリランカのルビーは、ピンクに近いものが多く、ミャンマー産のような赤(ピジョン・ブラッド)を見かけることはありません。この明るくチェリー色がかったルビーは、どの世代の女性にも合いそうな色合いだと思います。また、かなりレベルの低いルビーが海外から入ってきており、中にはガラスや鉛の含浸処理されたものも扱われています。これらは低価格で販売されていますが、そのような処理がされているという説明はまずないでしょう。
「蓮の花」という意味のシンハラ語から由来のある「パパラチア」ですが、コロンボの高級宝石店に行っても「非加熱パパラチア」を見つけるのは難しいです。大体の店では、加熱処理されたものを並べています。色もピンクとオレンジの中間の理想的な色もありますが、茶色がきついもの、ピンクサファイア(もしくはオレンジサファイア)をパパラチアとして表示して販売している店などもあります。パパラチアというだけで高額になる為、かなり無理のある色みのサファイアを並べており、正しく買う為にも買い手の知識が必要でしょう。
片山 新子 FGA
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