ジュエリーブログ,ニュース / ジェムランド

2012/11/21 水曜日

メレバンク・カフェ(21) - 再びロシアのダイヤに合成疑惑

Filed under: ジュエリーコラム, メレバンク・カフェ — ジェムランドeditor @ 3:23:07
2012年9月にロシアは1970年代に既に発見されていた大規模なダイヤモンド鉱脈が東シベリアに存在することを公表しました。この鉱脈は直径100km以上のポピガイと呼ばれる隕石クレーターにあり埋蔵量は数億キャラット、世界のダイヤモンド需要の3000年分を満たす量で、ダイヤ価格が暴落してロシアの利益が損なわれぬように発表を控えてきた、とされています。
 
このポピガイ・ダイヤはいわゆる衝突ダイヤ(Impact Diamond)と呼ばれるもので、隕石が地球に落下した際、地中のグラファイト(黒鉛)と衝突して瞬間的につくられた従来のロシア産ダイヤとは生成過程が異なるタイプのダイヤです。グラファイトを含む多結晶質の集積であるため一般のダイヤの2倍の硬度を持っていますが、色は真っ黒、内包物も多く、宝石質のものは存在しないとかつては報告されていました。大きな原石は出ているようですが、いくら埋蔵量が莫大であると言っても生成過程を考えるとクリスタル系の原石が含まれている可能性は極めて低いと思われます。硬度が高いことを活かして工業用に使用されることはあるでしょうが。
 
なぜ、3000年の需要を満たすとか、ダイヤ価格の暴落を恐れて公表を控えてきた、などとロシアは言うのだろうと、不審に感じていたのですが、ここにきて密かに囁かれているのがロシアの合成ダイヤ製造疑惑です。かつてロシアのダイヤが合成でないかと噂になったことがありました。ほぼ同じかたち、ほぼ同じ大きさのクリスタル系原石が大量に研磨され、内包物の特徴も類似していたからです。この疑惑はロシア産のダイヤに合成には見られない特徴が認められる、ということで一件落着しましたが、未だに合成であると主張する人も存在します。一般天然ダイヤは何万年もかけてゆっくり生成されますが、衝突ダイヤの生成は衝突の一瞬です。衝突ダイヤは時間的に見れば合成ダイヤに近い生成過程を持っているのです。ロシアは新しい技術でつくった合成ダイヤを衝突ダイヤと称して市場に流そうとして、この時期にポピガイ鉱脈の公表を行ったのではないかという疑惑が出ているのです。穿った見方ではありますが、ロシアならやりかねない、と頷いてしまうところが確かにあります。
 
このような疑惑が出てくるのはすべてロシアがきちんとした情報公開をしてこなかったせいです。ロシア一国ではなく世界のダイヤモンド業界に大きな影響を及ぼすことを踏まえて、広く情報公開が行われることを望みます。
 

2012/9/25 火曜日

メレバンク・カフェ(20)- しのび寄る合成ダイヤモンドの影

Filed under: ジュエリーコラム, メレバンク・カフェ — ジェムランドeditor @ 10:51:08

宝石質の合成ダイヤモンドは高温高圧法(HPHT)と化学気相法(CVD)によって製造されることが多いのですが、技術の進歩によりその製造コストは以前に比べかなり安くなっているようです。

香港のGIAやアントワープ、ムンバイのIGIのラボでまとまった量の合成ダイヤが持ち込まれたという報道がありました。これらはCVD法で製造された合成ダイヤで、大きさは0.3〜0.7ct、クラリティはVVSからVS、カラーはF~J、カットはEX~VG、フロリダのGemesis社の合成ダイヤに似ているが、Gemesis社は自社の製品であることを否定しているということです。

カラーレス、高品質の合成ダイヤの製造は可能であると随分前から言われていましたが、コストが天然ダイヤに比べて高すぎるので市場に出回ることはないだろうと考えられていました。どうやら状況は変わりつつあるようです。折りしも、韓国では有力なラボが合成ダイヤを天然と鑑別し、その商品が市場に流れたと国内で騒ぎになっています。

ルースの段階では合成と天然の鑑別は難しくないとGIAも日本のラボも言いますが、これは合成ダイヤを製造する会社の情報公開があっての話です。Gemesis社やApollo Diamond社は自社製造合成ダイヤに商標やシリアルナンバーをレーザー刻印して出荷していますし、新しい商品を発売する際にはその詳細を公開していますが、今回のようにレーザー刻印もなく一般の天然ダイヤと一緒にグレーディング依頼がなされた場合、未公開の新しい技術で開発された合成ダイヤが100%鑑別出来るのか、という問題が残ります。HPHT処理(これはHPHTダイヤ合成法から派生した技術で、天然のタイプ兇離屮薀Ε鵐瀬ぅ笋凌Г鯣瓦い燭蝓▲侫.鵐掘璽ラーに変える処理法です)ハイカラーのダイヤは当初鑑別が出来ずに天然ダイヤとして市場に流れた石があると言われています。

もっと厄介なのは材料として使用される小粒石です。メレバンク・カフェ(9)でセッティングされた濃いイエローの天然ダイヤメレーに合成イエローメレーが混じっていた問題に触れましたが、これはたまたまメレーを外して鑑別をした際に発覚したものです。枠付されたダイヤの天然、合成を判別するのは殆ど不可能であると鑑別機関も認めています。脇石鑑別を行わない鑑別機関もありますが、例えばダイヤの一文字リングの鑑別依頼があった場合、石を外さなければ鑑別しないと言えるのでしょうか?加工に使用する前にすべてのダイヤモンドメレーの鑑別をしなければならない時代がくるかもしれません。

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2011/4/1 金曜日

[宝石学の世界]-高品質メレーは入手困難になる?

Filed under: ジュエリーコラム, メレバンク・カフェ, 宝石学の世界バックナンバー — ジェムランドeditor @ 16:57:45
[宝石学の世界]–Vol.409-20110412
 1. メレバンク・カフェ(19)高品質メレーは入手困難になる?by 佐野 良彦
東北‧関東大震災が発生するや日本国内のインド人は続々と国外に脱出、日本に残り続けたのは1,2割に過ぎませんでした。震災から3週間を過ぎ、地震,津波からの復旧は始まったものの原発の状況は必ずしも好転しているとは言えませんが、かなりのインド人が戻ってきています。しかし、日本でのビジネスは回復の糸口が見えません。
3月のサイトでデビアスはメレーサイズ(研磨後)原石の価格を25%値上げしました。これはその上のサイズ(ポインターから大粒石まで)の7-8%に比べてもかなりの値上げですが、このサイズの原石は実勢30-40%のプレミアで流通していましたから、供給価と実勢価格の差を埋める措置と理解されています。
 
メレーの中で価格的に最も上昇しているのはマイナス2(1/120ct以下)、続いてマイナス4(1/80,1/100ct)のところです。研磨工不足と工賃の上昇で小さいサイズの研磨量が極端に減少し、需要に供給が追い付かない状態です。特にインド国内の需要はすさまじく、小さいサイズの高品質メレーはインド一国で生産のすべてが消費される勢いのようです。年初に1,000ドル/ctを超えたマイナス2のトップ品質は3カ月で1,200ドル/ctを突破して、まだまだ上がりそうな状況です。1個のダイヤを研磨する手間は1/200ctでも1ctでも極端には違いませんから効率の悪い小さなサイズをインド人が研磨したがらないというのは当然という気もします。ポインターやキャラアップのダイヤもインド国内で飛ぶように売れているのですから。
 
ビジネスも大きく変わりました。品質やサイズの選択が難しい40数年前の商形態に戻り、完全な売り手市場になっています。サイズや品質に細かく値段も出さない日本人バイヤーは殆ど相手にされなくなりました。東南アジア、中国市場は好調な上に、インド国内の好況のせいでインドから十分なメレーが入ってこず、メレーは不足気味です。その不足を補っているのが日本のリサイクル・メレーです。3月の香港ショーに出品された日本のリサイクル・メレーは殆ど完売だったようです。日本国内の古物市場でのリサイクル・メレーの価格も2-3割上昇しています。いまや、インド人バイヤーが現金を持って日本にメレーを買いに来る時代になっています。日本に居るインド人も手間と経費をかけて展望のない日本でビジネスを続ける意味があるのか、撤退を考え始めるところも出始めました。日本の在庫を香港に送れば数日で日本より高い価格で現金化できる、と豪語するインド人もいます。
 
国内で必要なメレーのうち中低価格帯の商品はリサイクル・メレーでカバー可能でしょうが、高品質のメレーは小さいサイズを中心に価格が上昇するだけでなく、調達が徐々に困難になってゆくと思われます。
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※敬称を省略しました。
宝石鉱物小事典は国立国会図書館データベース(Dnavi)に収録されています。
宝石に関するご質問や弊紙に対するご希望などをお寄せ下さい。
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2010/6/22 火曜日

メレバンク・カフェ(18)日本の市場は低迷、しかしダイヤモンド価格は上昇へ

Filed under: ジュエリーコラム, メレバンク・カフェ — ジェムランドeditor @ 15:47:39

日本の市場は低迷、しかしダイヤモンド価格は上昇へ

日本の宝飾業界は依然として低迷が続き、明るい兆しが見えない状況ですが、ワールドマーケットのダイヤモンド価格は確実に上がっています。

2008年9月のリーマンショックでダイヤモンドは大幅に価格を下げ、2008年末には大粒のダイヤモンドは殆ど動かない状況となりましたが、中国、インドが経済的に復活するのと歩調を合わせるように2009年夏頃からダイヤ価格は底値を脱し始めました。ダイヤモンド採掘業者の採掘停止や、デビアスがサイトの原石供給量を減らしたことも効果をあげました。

2009年の秋から少しずつ値を上げ始めた1ctアップのダイヤモンドは2010年に入ると急激に値上がりし、毎月高くなっています。0.5ctから3ctまでの価格はほぼリーマン以前のレベルに戻しました。4ctアップのダイヤは若干リーマン以前よりは安いようですが、メレーは完全にリーマン以前の価格を上回りました。

メレー(1/6ct以下のダイヤを言います。「メレー」という言葉についての詳しい考察はメレバンク・カフェ(2)をご覧ください)価格の上昇はインド国内の経済問題と深く関わっています。インドのダイヤモンド産業を支えてきたのは50万人とも60万人ともいわれる研磨工でした。景気が悪くなると研磨工はレイオフされ、農業など他の産業の労働者となり、景気が回復すると再びダイヤ研磨工として戻ってくる、というパターンが長く続き、ダイヤモンド産業成長の安全弁の役割を果たしていました。リーマンショック後、米国への輸出は数カ月ストップ、逆に既輸出分のダイヤが返品される事態となり、多くの工場は一時的に閉鎖され、2008年の末には半数以上の研磨工が職を失いました。米国から返された商品の再販売が進んだ2009年春から工場は再開を目指しましたが、予想に反して研磨工は戻って来ませんでした。インド国内の経済発展の勢いは強く、賃金も上昇して研磨工にとってダイヤ産業に戻るメリットがなくなったということでしょう。研磨工賃は2割以上上がったと言われていますが、それでも戻ってきた研磨工の数は多くはありませんでした。レイオフされた研磨工は主として-2、ブラウン、ナッツ等の安価なアイテムを研磨していましたから低価格帯のアイテムは品不足となりました。しかし、安い材料は値段が上がると別のアイテムにとって代わられるという宿命を持っていますし、原石の値上がりは研磨石よりも大きいので、研磨量はリーマン以前のレベルには及ばない状況です。メレーの価格はこれから先も少しずつ上がってゆく可能性が高そうです。

佐野 良彦

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2009/5/19 火曜日

メレバンク・カフェ(16)はずしメレーについて

Filed under: メレバンク・カフェ — 佐野 良彦 @ 7:46:05

インターネットや雑誌でジュエリー買取の広告が増えています。地金価格が少し下がって落ち着いてきましたが、それでもバッグや時計よりも盛んな気がします。有名ブランドのバッグや時計の中古品価格が暴落したせいかも知れません。買取られたジュエリーはそのまま仕上げ直しをして再販されることもありますが、多くはつぶされて、地金は地金で売られ、中石は中石で、メレーはメレーで売られます。
中石は必要なら再研磨して、ソーティングや鑑別を取れば1ピースでも再販が可能ですが、メレーはひとつのジュエリー毎にメレーを売るという訳にはゆきません。量をまとめて販売するというかたちになります。

はずしメレーは最近研磨されたものばかりとは限りません。20年も30年も、時には50年も前に研磨されたメレーが存在します。インドの研磨技術も随分進歩しましたから20年も前のメレーはクラリティが良くてもカットが悪くて使えないものが多いのです。インドには日本から還流した古い、カットの悪いメレーが売れずにそのまま残っているそうです。

また、はずしメレーは欠けているものが多く含まれます。使ってる際に欠けたものとはずす際に欠けたものです。経験的に言うと、彫り留されたメレーははずすと1割以上の石が欠けて戻ってきます。

それだけではありません。はずしメレーの中にはキュービックのメレーが結構混じっています。ダイヤの中からキュービックを選り分けるのは簡単だろうと思われるかも知れませんが、小さいメレーではルーペで見ただけでは判断がつかないケースもあります。最終的には機械に頼るのですが、この機械はキュービックが混じっているかどうかは判断できますが、どのピースか特定できないというものなので、キュービックを取り出すのはとても時間がかかります。

というわけで、1個石のダイヤは、はずし石でも新しくカットされたダイヤとほぼ同じ価格で再販が可能ですが、メレーは数分の1の価格になります。それでも色々問題を抱えていますので、リフォームなどで使用する際には慎重に対応する必要があります。

佐野 良彦

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2009/4/9 木曜日

メレバンク・カフェ(15)メレーの価格はどうなる?

Filed under: メレバンク・カフェ — 佐野 良彦 @ 11:46:17

世界同時不況の影響をダイヤモンド業界も大きく受けています。1個石を見てみると大きい石、グレードの好い石の価格は昨年秋から急落しました。1ct、2ctの高品質のダイヤの価格は2009年に入っても下がり続けています。世界不況はまだまだ続きそうですから、当分の間キャラアップの高品質のダイヤの値上がりは難しいと思われます。同じキャラアップでもSI,ピケに関してはそこそこ需要があり、価格は下げ止まっています。

今、ダイヤモンドが一番売れているのは中国とインドです。リーマン・ショックで落ちた需要がかなり戻りました。ベトナムも回復しつつあります。売れ筋は2分から5分のG-JカラーのVVS1~VS1、カットはエクセレントからフェアまで広いレンジです。ポインターのSIクラス、キャラアップのH~Kカラー、VSクラスも一定の需要があります。

最近はダイヤモンド価格の国際化を痛感します。日本国内のものでも国際的に安いダイヤはすぐ買い手がついて海外に輸出されることが増えたせいでしょう。価格的に上がりそうなアイテムは2分、3分のJアップVSアップ、5分までのポインターのSI,ピケクラス、キャラアップのSI,ピケ、H-K、VSクラスというところでしょうか。

ではメレーの価格はどうでしょうか? 1個石と同様にメレーの価格も昨年来かなり下落しました。しかし、これはロットの価格が下がったということで必要とするサイズ、品質のメレーが安く買えるようになったということではありません。サイズや品質の要求が細かく、シビアになるにつれてロット価格とセレクション価格の差は大きくなっていって、みんなが欲しがる品質、サイズの価格は殆ど変わりませんでした。
不況時には高品質材料が少量しか売れない現象が起こると言われます。ヘビーナッツやヘビーピケ、ダークブラウンのメレーはかなり値段を下げましたがエクセレントメークのクリーンメレーは逆に価格を上げました。

昨年末からインドのメレー生産はかなり減少しています。生産調整の意味合いもありますが、株式や不動産に投資した挙句、バブルの崩壊でキャッシュ・フローが不足している業者も多く、銀行も新規の融資には慎重ですから生産が旧に復するには時間がかかりそうです。みんなが欲しがるアイテムの価格は徐々に上がって行くのではないでしょうか。

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2008/3/11 火曜日

ダイヤモンドの硬度

Filed under: メレバンク・カフェ — 佐野 良彦 @ 21:35:20

ダイヤモンドの硬度は10で地球上最も硬い物質であると言われます。これはモースの硬度計というスケールに従った表現です。モース硬度は鉱物と鉱物をこすりつけて硬度の大小を決めていますが、あくまでどちらが硬いかという相対的硬度を表しているに過ぎません。トパーズとコランダムの硬さとコランダムとダイヤモンドの硬さの差はどれくらいかというとよくわからないのです。

これを絶対的数値で表すことができないかと考えて考案されたのがビッカース硬度やヌープ硬度です。ビッカース硬度はハードプラチナが一般のプラチナより硬いことを説明する際よく使われており、絶対硬度計の中では最も著名ですが、主に地金の硬さに使用されるケースが多いので宝石での比較はヌープ硬度の方が適当と思われます。
モース硬度とヌープ硬度の比較をしてみます。

モース硬度とヌープ硬度比較表

宝石の硬度

ダイヤモンドがいかに硬いかお分かりになると思います。数値的に言ってダイヤモンドの硬さはコランダムの3倍にも達するからです。と同時にダイヤモンドの中でもその硬度はかなりの差があります。ダイヤモンドの硬度の差は結晶の状態や産地、内包物によると考えられています。正八面体のきれいな結晶よりも双晶の方が硬いことは知られていますが、産地間の硬度の差も大きいものがあります。最も硬いと言われているのがアーガイルを筆頭とするオーストラリア産の原石です。一方、ロシアの原石は柔らかいと言われていて、同じキズを取るのに1/3から1/4の時間しかかからないと研磨業者は話しています。
 
硬さと強さは違う
ダイヤモンドは他の物質に比べ、飛び抜けて硬いということは事実です。しかし、硬いということと、衝撃に強いということはイーコールではありません。ダイヤモンドは硬いから割れたりしないと思っていると痛い目にあうことになります。ダイヤモンドよりも硬度が低くて衝撃に強い宝石は沢山あります。

佐野 良彦

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2007/12/7 金曜日

姿を消すヨーロピアンカット

Filed under: メレバンク・カフェ — 佐野 良彦 @ 5:00:22

GIAのグレーディングレポートにカット評価が加えられて2年が経過しようとしています。この2年でGIAのカットグレーディングシステムは世界のダイヤモンド業界に完全に定着しました。そして、かつてラウンドブリリアントカットの主流であったヨーロピアンカットは市場から姿を消しつつあります。

ダイヤモンドのカット トルコフスキー理論により開発されたアメリカンカットはクラウンの高さとテーブルの小ささが特徴です。(クラウンの厚さ16.2%、テーブル53%)一方、ヨーロッパではクラウンが少し薄く(14.6%)、テーブルが広め(57.5%)のスカンジナビアカット(エプラーカットがモデルという説もあります)が主流で、プラクティカル(実用的)カットと称してテーブルを60〜65%まで広くした石が多く研磨されていました。このクラウンが薄めでテーブルの広いカットをヨーロピアンカットと称しました。

1980年代のアントワープではアメリカ人はダイヤがよく分かっていない、場面が小さく、石の内部が少し暗く見える石が何故いいカットなんだ、と言われたものです。同じ石目ですとクラウンが薄い分、直径は大きくなって見た目は大きいですし、テーブルが広い分、石の内部から戻ってくる白色光(ブリリアンシー)は多くなって明るく見えるからです。ロシアやアフリカ、イスラエルのカットもどちらかと言えばヨーロッパに近いカットでした。

GIAは今ではアメリカンカットが最高のカット(アイデアル)であるという主張はしていません。カットグレーディングシステムも特定のカットモデルを決めてよしあしを決めるのではなくFACET WARE®というソフトを使って、色々なファクターを組み合わせてカットを決めるという方式です。従ってアメリカンカットは好ましいモデルのひとつでしかないわけなのですが、研磨する側としてはモデルを決めてその形状に近づけてゆく方が工程的には楽なのでしょう、あっという間にクラウンの高い、テーブルの小さいカットがマーケットを席捲するところとなりました。ベルギー、イスラエル、ロシアはいうに及ばず、アフリカ、インド、中国の同様です。ヨーロピアンカットは古物市場から戻ってくる古い商品でしか見られない状況になっています。

個人的にはアメリカンカットはクラウンが少し高すぎる感じがしています。我が国のAGLがモデルとした15%ちょっと、の高さ(これはアメリカンカットとヨーロピアンカットの中間の高さに当たります)が好ましいクラウンの高さではないか、と思っているのですが……。

佐野 良彦

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佐野 良彦

Filed under: 執筆・投稿者の情報, メレバンク・カフェ — 佐野 良彦 @ 4:46:46

 

mr_sano.jpg株式会社サノ・トレーディング代表取締役。    

同社は明治15年(1882年)創業の欧米時計宝石販売佐野商店が発展した老舗ダイアモンド輸入卸。

企業理念には『宝飾文化人を目指す』と掲げる。

各種業界誌への寄稿多数。確かな見識でも知られる。

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