宝石学ニュース解説 - アコヤガイ真珠養殖技術を科学的に証明
独立行政法人水産総合研究センターから次のプレスリリースが発信された。このニュース、興味はあるけれど良く分からないという一般の方は多いのでは。そこで、プレスリリースをまず紹介し、次いで解説をする。
プレスリリースここから—
真珠100 年の謎をついに解明
- 日本で開発したアコヤガイ真珠養殖技術を初めて科学的に証明 -
真珠層を作る組織を核とともに別の貝に入れて真珠を作る技術は日本で開発されましたが、その原理は科学的に証明されていませんでした。
真珠形成に関わる遺伝子を調べることで、別の貝の組織が移植先の貝で生き続け、真珠の形成に大きく関わっていることを初めて科学的に証明しました。
「アコヤガイの真珠層を作る組織を切り出し、別のアコヤガイに核とともに移植し、核の周りに真珠袋を形成させて真珠を作らせること」は、100 年以上前に日本で開発された極めて画期的な技術で、現在も広く普及しています。しかし、実際に切り出した貝の組織が、移植先の貝に存在し続け、宝石である真珠の形成に大きく関わっているかどうかは、確かめることが難しく謎のままでした。
今回、水産総合研究センターと麻布大学、三重県水産研究所の研究チームは、真珠の形成に関与する遺伝子を調べ、組織を移植してから18 ヶ月目までは、移植した組織の遺伝子が働いていることを確認しました。これにより、これまで100 年来実証されることがなかったその原理を初めて証明することができました。
この結果は、移植した貝の外套膜の組織が存在し続けて真珠を作ることを示しています。今後は、良質な真珠を作る遺伝子を見つけて利用することで、真珠層が厚く、色や光沢の良い高品質な真珠を生産可能なアコヤガイの開発につながると大いに期待されます。
プレスリリースここまで—-
このニュースを理解するためには、真珠がどのように養殖されるのかを理解する必要がある。
真珠とは真珠貝から生成される物質だが、そもそも真珠貝とは何か?
真珠貝とは貝殻の内側が虹色に輝く貝のことだ。真珠の表面と貝殻の内側は同じ物質だから、貝殻の内側が美しい例えばアワビならば真珠貝となり、ハマグリのように白く鈍い光沢を内側に持つ貝は真珠貝とはなり得ない。
真珠貝の内側と真珠表面は、“真珠層”と呼ぶカルシウム質の結晶から形成される。
真珠層は、寿司屋のネタでもある“ヒモ”から分泌される。“ヒモ”を外套膜(がいとうまく)と呼ぶ。
海水産真珠貝で養殖する場合、一般的には淡水産二枚貝の貝殻からつくった“核”と呼ぶ球形の物質に外套膜を小さく刻んだ小片(ピース)を密着させて真珠貝に挿核する。外套膜は、挿核する真珠貝とは別の真珠貝から取る。
真珠貝の中に入った外套膜は細胞分裂を繰り返し、真珠袋と呼ぶ組織で核全体をスッポリと包み込むようになる。
真珠袋の分泌物はやがて薄くて小さな結晶群となって核を幾重にも包み込む真珠層となる。
挿入した外套膜が分裂をして真珠袋を形成するという真珠養殖のメカニズムを考えると、外套膜という外部の貝から採取した組織が少なくとも当初はそのまま働き続けるというのは自明のことと思われるが、それを遺伝子レベルで、そして18ヶ月までは移植した外套膜が働いていると証明した点で意義がある。18ヶ月といえば、多くの場合真珠養殖の全期間をカバーする点からも遺伝子レベルでの外套膜の研究が良質な真珠を養殖する役に立つと間違いなく証明されたからだ。今後の研究成果を期待したい。
写真提供 株式会社アイダ朝香真珠