総務省が発表した平成20年版情報通信白書を取り上げ、宝飾関連事業者に役立つと思われる情報をまとめた。今後のIT戦略のお役に立てば幸いである。
■ユビキタスネット
平成20年版情報通信白書では、その約半分の記述を「活力あるユビキタスネットの実現」に割いている。ユビキタスネットとは、いつでも・どこでも・誰でも利用可能なネットワークを指す。具体的にはオンラインショッピング、テレワーク、遠隔医療の一層の普及とそれによる人・物の移動の減少や、ペーパーレス化を通じた省エネ化、つまり地球環境への貢献、あるいは様々なものに電子タグを取り付け、またタグを読みとるセンサーを普及されることでトレーサビリティを高め、物流等の効率化を計るといったことが含まれる。
例えばK14WGのピアスに電子タグを取り付けたとする。盗難対策という意味の他にも、金属アレルギーの人がその旨を記録したタグを所持していれば、当該ピアスを手に取った時に音を鳴らして注意を促すといった使い方も考えられる。
携帯電話で読み込み可能な二次元バーコードを野菜に取り付け、消費者に生産者情報を提供するスーパーがある。ユビキタスネットの考え方を電子タグに代わって二次元バーコードで実現している訳だが、宝飾品に於いても同様にデザイナー、制作者などの情報を提供しても面白いだろう。
■インターネット利用者数
平成19年末のインターネット利用者数は8,811万人(前年対比0.7%増)だった。ここ2年間は微増にとどまっている。インターネットの人口普及率が69%に達した今、この傾向は今後も大きく変わらないことが予想される。
個人がインターネットを利用する際に使用する端末は携帯電話などの移動端末での利用者が平成18年末から201万人増加して7,287万人だったが、パソコンからの利用者は242万人減少して7,813万人だった。
■携帯のみでネット接続する利用者が急増
着目すべき点は携帯端末でネットに接続するユーザが増加し、パソコン・ユーザが減少している事だ。インターネットを携帯端末のみで利用するユーザ者は304万人増加して992万人で、前年対比でなんと44.2%増加している。一方、パソコンでのみ利用するユーザは158万人減少(同9.7%減)して1,469万人だった。
2010年に実用化が見込まれる光ファイバー並みの通信速度が実現される第4世代携帯電話の普及がはじまれば、携帯端末でのみインターネットを利用するユーザは益々増加することが見込まれる。
携帯ユーザに対するネット上での情報提供は、今後益々重要になるだろう。
■ブロードバンドの利用状況
この連載をはじめた当初、ブロードバンドという言葉は浸透しておらず注釈で説明をする必要を感じたが、8年を経た今や一般家庭におけるブロードバンド普及率はインターネットユーザの約80%に上る。
ブロードバンド普及率は、規模の大きな都市の方が高い状況は当初から変化が見られないものの、近年は町・村での伸び率が大きくなっている。通信事業者のインフラ整備が都市部でほぼ整い、町村部に手が回り始めた状況がうかがえる。
作成担当者は従来、ウェブページに使用する画像ファイルのサイズをいかに小さくするかに心を砕いていたと思うが、今やその苦労からは開放されつつあるのは喜ばしい。
■AIDMA理論に代わる新たな消費行動プロセス
マーケティングを学んだ方の多くは、消費者が商品購入に至るまでの心理状態の変化を述べたAIDMA理論をご存知だろう。即ち以下のプロセスである。
・Attention(商品を認知)
↓
・Interest(興味を持つ)
↓
・Desire(欲しいと思う)
↓
・Memory(商品やブランドを覚える)
↓
・Action(購入する)
インターネットが存在しない1920年代に提唱されたこのプロセスは、消費者が限られた情報にした触れることができないことを前提としている。しかし現在は大量の情報をいつでも入手することができる。この変化によって消費者の購買プロセスもAIDMA理論の通りではなく、商品を“認知”し“興味”をもった後には複数の類似商品についての情報を集めて購入前に品質、価格、販売店を比較する「選択肢評価」行うようになったと考えられている(右図)。
■購買行動の6割に影響する選択肢評価。立地条件の悪い小売店はネット上での情報発信が特に肝要
選択肢評価は複数店舗を訪れる事でも行われ、実際衣料・アクセサリーに於いてはその割合が5割以上と最も高い。しかし、ショッピング・サイトやブログなどの口コミサイト、メールマガジンなどのインターネットを利用しての選択肢評価も合わせて5割を越えているる点も見逃せない(下図)。それは、ネット上での情報発信がない小売店は8千万人を超えるネットユーザの半数が実施する選択肢評価の対象にすら入らないとも読めるからだ。
商品や販売店を比較した結果は実際の購買に大きく影響する(下図)。衣料・アクセサリーでは約56%が購入の決め手になったとしている。
それでは、衣料・アクセサリーは実際にはどこで購入されているのか。およそ76%が店頭と答えている(ネット通販は約16%)(下図)。
これらの数値から、商品や販売店を比較する情報は実店舗の訪問やネット上で集め、購入は実店舗で行う消費者が多いという姿が浮かぶ。情報収集段階での実店舗訪問は複数店舗が軒を連ねる百貨店やショッピング・モールに集中すると考えられる為、立地条件の悪い小売店の場合には、ネット上での情報発信が一層重要だといえよう。
■ネット戦略は“ウチ”にも関係ある
このようなことお読みいただいた宝飾店経営者の中には、次のように考える方も居られるかもしれない。
「ジュエリーは他の物品とは違う。高額な宝飾品を実際に見ないで買う顧客はいないから、ネット戦略といってもウチには関係ない」
「カラード ストーンは1石1石ユニークだから、同じ色石でも他の石とは比較できない以上、インターネットで消費者が比較する対象とはならない」
しかし、弊社がお手伝いしているネット ショップの中には、異業種から参入をして1点数十万円という宝石類をコンスタントに売っている会社がある。ネット上で商品を認知し成約は来社の上ということも多いそうだが、この場合もネットあればこその成約である。そのような会社は他にもあるだろう。このようなネット ショップで宝飾品が売れた分、ジュエリー市場は拡大しているのだろうか?おそらくそうではあるまい。ネット ショップで買った分、百貨店や専門店で買わなくなっているのではないだろうか!? そして消費者向け電子商取引の市場規模が拡大している(右図)現在、この傾向はさらに顕著になる事が予想される。売れない売れないと訴えている小売店も多いが、このような現実を前に、ネット戦略などウチには関係ないですむものではあるまい。
出典
平成20年版通信通信白書査(総務省)
平成19年通信利用動向調査(総務省)
平成18年度電子商取引に関する市場調査(総務省)
ユビキタスネット社会における情報接触及び消費行動に関する調査研究
有限会社フクモト・ロジスティック・システム
福本 修
本稿は、ジェモロジスツ ニュース(GIA JAPAN発行)vol.62に寄稿した弊社原稿をGIA JAPANの許可の元、転載した。