ガーネットと言えば、あの深紅の薔薇のような赤色をイメージする人が多いと思います。
宝石学的にガーネットは6種類に分けられます。
結晶系は同じですが、基本となる珪酸塩に含有する成分(元素)が違います。
- アルマンディン → 鉄とアルミニウム
- パイロープ → マグネシウムとアルミニウム
- スペサルティン → マグネシウムとアルミニウム
- グロシュラー → カルシウムとアルミニウム
- アンドラダイト → カルシウムと鉄
- ウバロバイト → カルシウムとクロム (宝石としてはあまり扱われない)
その為、赤だけに限らず、オレンジやピンクがかった紫、緑色まであり、中でもデマントイド(アンドラダイト)と呼ばれる緑のガーネットはダイアモンドよりも分散が高い為、とても強い輝きがあります。同じ緑でも一般的に「ツァボライト」(グロシュラー)は、デマントイドよりも多く市場に出回っていますが、どちらも赤いガーネットと比べて値段がかなり高いです。スリランカでは残念ながら緑のガーネットは産出されません。しかし、アフリカで産出されたものが輸入されて店頭で売られています。同じグロシュラーで、スリランカで代表的に産出されるものに「ヘソナイト」があります。シナモンストーンとも呼ばれ、褐色のオレンジが暖かみのある色あいを出しています。特徴的な内包物として、スワールと呼ばれる渦のような、糖みつのようなものが見られます。良質なものは赤味と透明度が強く、魅力的でカラット当たりの値段も通常のヘサナイトと比べて高いです。スペサルティンも黄色味が強いオレンジから赤味のあるオレンジまであり、ヘサナイトと様相が似ているものもあります。スリランカの南部、ハンバントタは塩業で有名ですが、その海岸は山間部から流されてきたヘサナイトガーネットの粒(砂のような状態)が多く混じって砂浜が赤っぽく見え、大変おもしろいです(その時のブログ)。
鉱物名ではないのですが、「薔薇の花びら」という意味を持つ、ロードライトガーネット(鉱物的にはアルマンディンとパイロープの中間的なもの)は紫がかったピンク色をしており、中にはピンクサファイアと見間違えてしまうものもあります。簡単な鑑別の方法は、二色鏡でのぞくと、ガーネットは単屈折の為1色しか見えないけれど、サファイアは複屈折で2色に見えます。
さて、緑以外は産出量も多いガーネットですが、珍しいものとしては、カラーチェンジガーネットがあります。これはパイロープとスペサルティンが混ざったもので、自然光の下では緑がかった色、白熱光では紫から赤のような感じになります。高級なアレキサンドライトに比べたら値段は下がりますが、希少性が高いものです。また、同じ種類で、青色に色変わりするものが1996年、スリランカから発見されたそうです。(自然光で暗い青、白熱光では青紫)でも、その後の産出がないので、まさに青いガーネットは「幻のガーネット」ですね。
片山新子、FGA
最近、産地ラトゥナプラに行った経験も書き込んでいます。
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スピネルをサファイアやルビーと見間違えることがあるかもしれません。
とても綺麗なブルーサファイアだと思ったら、実は合成スピネルだったという話は、観光客を相手にした路上の土産物店ではあり得る話です。
過去にスピネルと思われていたものにターフェアイトという宝石があります。
スピネルの科学組成はMgAl2O4 硬度は8 比重3.60
ターフェアイト BeMg3Al8016 硬度は8 比重3.61
鑑別に欠かせない屈折率も非常に近いため、同じ宝石と間違えられていたのも無理はありません。では、このふたつの宝石を区別するにはどうしたらいいでしょう?
まず重要な違いは、スピネルは「単屈折」であり、ターフェアイトは「複屈折」であるということです。例えば、ぺリドットやジルコンなど複屈折の大きい宝石は、肉眼やルーペで宝石を覗いた時に、ファセットが2重に見えます(だぶって見える感じ)。しかしターフェアイトの場合、同じ複屈折でも、そのふたつの屈折の差が小さい為、ルーペで確認するのは難しく、屈折計や偏光フィルターで丁寧に調べなければなりません。また、顕微鏡で特徴ある内包物を確認していくことも大切です。スピネルに比べ、ターフェアイトは希少性が高く、値段もかなり高めです。どちらもスリランカで産出されます。スピネルはどの宝石店にも置いてありますが、ターフェアイトを扱っているお店はほとんどないです。
さて、そんな希少なターフェアイトよりもさらに希少性が高いマスグラバイトが現われました。(宝石質のものは1993年頃に登場)
化学組成は、(Mg,Fe,Zn)2 Al6BeO12 (全国宝石学協会の資料参考)
主成分はターフェアイトと同じ、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウムとなります。
これまでの産出はスリランカが主でしたが、近年アフリカのタンザニアからも宝石質の良質なものが発見されるようになりました。英国宝石学協会の最新ジャーナルにも詳しい鑑別方法が取り上げられ、世界の関心の高さが伺われます。ターフェアイトよりも更に希少で、値段もそれ以上に高い為、スリランカで産出されてもすぐに外国の宝石フェアに流れてしまい、まずスリランカ国内の宝石店で見かけることはないでしょう。
スピネルをターフェアイトやマスグラバイトと言って売りつけることはないと思いますが、ターフェアイトもマスグラバイトも鑑別がとても難しい宝石なので、購入する時は鑑別機関等できちんと鑑別されることをお薦めします。もし、過去にターフェアイトを手に入れていたなら、もしかしたらそれはマスグラバイトかもしれません(笑)。ターフェアイトとマスグラバイトの区別は鑑別機関の高度な鑑別機械でなければ、判別できません。
片山新子、FGA
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赤く美しいスピネルは、見た感じだけではルビーと区別をするのが難しい宝石です。
スピネルは酸化アルミニウムと酸化マグネシウムの化合物で、ルビーやサファイアといったコランダム(酸化アルミニウム)と同じ場所で産出されることが多く、歴史的にもコランダムとして扱われていた時代もありました。英国王室の王冠に使われているルビー が実はスピネルであったという話は有名です。
硬度も8とコランダムに次ぐ硬さで、カットと研磨をされた後は大変輝きの美しい宝石になります。また、結晶も等軸晶系の正八面体の美しい形をしており、中でも完璧な結晶は「エンジェル・カット」と呼ばれ、コレクターには大変魅力的な宝石です。
スピネルの色は赤だけに限らず、青、ピンク、紫、青緑、藤色、緑がかった黒や無色とバリエーションが豊富で、スリランカでは深い緑色したものをセイロナイト(スリランカの昔の呼び名セイロンから由来)と呼んでいます。市場で価値があるものは、やはりルビーやサファイアのような赤や青ですが、中でも天然のコバルトが入り込んで青色になったものは「コバルト・スピネル」と呼ばれ値段も通常の青いスピネル(鉄だけが起因)よりも高いです。また、全く不純物を含まない無色のスピネルは大変稀です。ここスリランカでも無色(カラーレス)スピネルを置いている店は珍しく、値段も他のスピネルよりかなり高めになっています。紫色をしたスピネルで、太陽の光では青紫をしていたものが、白熱光の下で赤紫に変わる、「カラーチェンジ・スピネル」もあります。また、スター効果(石の真ん中に線が現われる)のある「スター・スピネル」は6条や4条の光が現われますが、スターサファイアと比べて産出量が少なく、地の色もどちらかというと暗い感じになるので、宝飾として扱われるよりは、コレクターを対象としてカット研磨されています。
さて、スピネルは加熱や放射といった処理はされていないのですが、鑑別で気をつけないといけない点は、「合成スピネル」との区別です。拡大検査で内包物としてジルコンなどの他の鉱物が見つけられれば天然の証なのですが、フラックス法で作られた合成スピネルの液状のようなインクルージョンは顕微鏡で形状やフラックスの欠片を慎重に見なければ、天然の液状と見間違えてしまいます。次回はコランダム以外でスピネルと間違えられやすい鉱物について紹介します。
片山新子、FGA
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クリソベリルという名前は聞き慣れないかもしれませんが、これは鉱物名で、その中でも宝石の真ん中に一条の光が現われるものを「キャッツアイ」、色変わりを見せるものを「アレキサンドライト」と呼び、大変に高級な宝石として扱われています。
スリランカではこのどちらの宝石も産出されますが、アレキサンドライトは、産出量も少なく、特有のカラーチェンジも太陽の下では若草色、ライトの下では赤紫かラズベリーの赤といった色変わりを見せます。残念ながら顕著に色が変わるものは少ないです。もしはっきりカラーチェンジするものが店頭で売られていたとしても、
- それは本当にスリランカ産なのか?
- カラーチェンジタイプの合成サファイアではないか?
- カラーチェンジガーネットではないか?(これも希少ではありますが)
といった点を疑ってしまいます。しかし、ブラジル産のような高級アレキサンドライトは大変高価な為、少しでもカラーチェンジのするスリランカ産が予算内で購入できるのであれば手にいれてみるのもいいのではないでしょうか。
スリランカのお店で、日本人観光客が熱心に勧められる宝石のひとつに、キャッツアイがあります。猫目石として有名な宝石です。石の真ん中にひとつの光の帯が現われ、本物の猫の目のようでおもしろいです。クリソベリル・キャッツアイは細長い液体のチューブ状の含有物が同じ方向に並んでおり、それをカボションにカットして上から光をあてると、一条の光となって現われます。このことを「シャトヤンシー効果」と呼びます。この効果はクリソベリルに限らず、クオーツやトルマリンなど、多くの宝石にも見られますが、市場で、キャッツアイと単独で呼ばれる場合はこのクリソベリルのことを指します。最高級品は蜂蜜の色をしており、過去に展示会で見たことがありますが、深みのある茶色の宝石の真ん中にくっきり光が一条現われ、カラットも大きかった為か威厳にみちた宝石でした。また、アップルグリーンと呼ばれる緑色も希少性が高く、高級品として扱われています。もし、本当に良いキャッツアイをお探しであれば、スリランカで見つけることができます。高級品ではないのですが、よく見かける色に、うすい黄色、褐色した茶色のものがあります。1カラット未満の小さいものでも、目がはっきり現われ、値段も手頃ですし、若い人にも似合うジュエリーになるのではないでしょうか。余談ですが、先日クリソベリルに似たキャッツアイを見つけました。10カラットほどあったのですが、値段が安く、一条の光がぼんやりとしています。鑑別をしてみると、ジルコンでした。
アレキサンドライトにシャトヤンシー効果の現われる「アレキサンドライト・キャッツアイ」というものがあります。(残念ながらまだ見たことがありませんが)
さて、高価なふたつの宝石を説明致しましたが、カラーチェンジもしないで、猫のような目もでないものを、そのままの鉱物名「クリソベリル」と呼びます。色は緑、黄色、茶色がかった黄色、黄金のような色があります。クリソベリルは硬度が8.5とコランダム(サファイア・ルビー)に次ぐ硬さがあり、輝きが強く、大変魅力的な宝石です。残念ながらスリランカ産のクリソベリルは鉄分を多く含んでいて、色がやや褐色した感じのものが多いです。しかし中には美しいゴールドのような輝きのものもあります。それぞれの色を比べてみると、微妙に色が違って味わいがあります。自分の好みに合うものを探して、それを指輪にするととても印象の強いものが出来上がると思います。
個人のブログを楽天で書いています。宝石学の勉強やスリランカの生活など、どうぞ覗きに来てください。
スリランカ宝石留学物語
片山 新子、FGA
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チャールズ皇太子が婚約の時にダイアナに贈った指輪はスリランカ産サファイアといわれています。ブルーサファイア(コランダム)はスリランカの代表的な宝石のひとつで、観光客を相手にした宝石店では、目につくところにブルーサファイアのジュエリーやルースが置かれています。しかし、非加熱サファイア(ブルーの色に限らず)の産出量は減っており、ギウダと呼ばれるガソリンのような茶、黄色味かかった白いコランダムを加熱して色を出しているものが大半です。この加熱処理はその宝石に潜在的にあった能力を引き出し、色も安定します。宝石の産地であるラトゥナプラ近郊では、加熱工場が多くあり、家庭内工業といった感じで昔ながらの機械(Toda Furnace, Lukmini Furnace)を使って、1700−1800度の温度で熱処理を行っています。加熱業者の研究と努力で、本来ならば宝石として扱われないギウダが、美しい色に変わっていくのは感慨深いです。
しかし、中には表面を拡散処理されたものやベリリウム処理をしているのではないかと思われるサファイアを見かけることもあります。これらは、海外から持ち込まれるケースもあり注意が必要です。また最近では、マダガスカル産(アフリカ)の非加熱のブルーサファイアや加熱処理されたものも増えており、ベルワラ(宝石のディーラーが多く集まる街)の業者も定期的にマダガスカルまで買付けに行くとのことです。
スリランカのルビーは、ピンクに近いものが多く、ミャンマー産のような赤(ピジョン・ブラッド)を見かけることはありません。この明るくチェリー色がかったルビーは、どの世代の女性にも合いそうな色合いだと思います。また、かなりレベルの低いルビーが海外から入ってきており、中にはガラスや鉛の含浸処理されたものも扱われています。これらは低価格で販売されていますが、そのような処理がされているという説明はまずないでしょう。
「蓮の花」という意味のシンハラ語から由来のある「パパラチア」ですが、コロンボの高級宝石店に行っても「非加熱パパラチア」を見つけるのは難しいです。大体の店では、加熱処理されたものを並べています。色もピンクとオレンジの中間の理想的な色もありますが、茶色がきついもの、ピンクサファイア(もしくはオレンジサファイア)をパパラチアとして表示して販売している店などもあります。パパラチアというだけで高額になる為、かなり無理のある色みのサファイアを並べており、正しく買う為にも買い手の知識が必要でしょう。
片山 新子 FGA
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大国インドの下に位置する南国の島、スリランカはセイロン紅茶として有名な国です。
また鉱物資源にも恵まれ、コランダム、ガーネット、スピネルをはじめ75種類の宝石が産出され、採掘、研磨、カット、輸出など、国の主要な産業のひとつとなっています。
1.主な宝石となる鉱物は10種類
コランダム(サファイア、ルビー)、クリソベリル(キャッツアイ、アレキサンドライト)、スピネル、ベリル(アクアマリン)、ガーネット、トルマリン、ジルコン、トパーズ、フェルドスパー(ブルー・ムーンストーン、アマゾナイト)、クオーツ(水晶、アメジスト、スモーキー・クオーツ、ローズクオーツ)
2.希少性のある主な鉱物は8種類
アンダリュサイト、アパタイト、ダイオプサイド、エカナイト、アイオライト、コーネルピン、シンハライト、ターフェイト
次回はひとつひとつの宝石についてお話していきます。
片山 新子