安いものには安いなりの理由がある
昨年、和歌山県警科学捜査研究所(科捜研)の男性主任研究員が、事件現場で採取された証拠物質の鑑定書を過去に鑑定された同種の鑑定書と差し替える不正行為を行っていたとして書類送検される事件があった。
鑑定書は死亡交通事故などの現場で採取された車両の塗膜片などを分析したもので、報道はないがおそらく分光検査の結果と思われる。分光検査は宝石鑑別にも使われるが、この場合は塗膜の成分を調べて車種を特定する為に実施されたと推定される。
この事件では、波形で示される検査結果を提出する際に、当該事件の鑑定結果ではなく、過去に行った同じ物質の鑑定結果と差し替えていた。当該事件での鑑定結果を示す波形が綺麗にでないと上司にしかられるため、それを避けるために綺麗な波形がでた過去の結果を使うということを、少なくとも6件は繰り返していたという。
不正に気が付いた同僚が上司に報告して発覚した。
この記事を読んで感じたのは真珠の品質に関するレポート(鑑定書)で同様の事が行われた場合、一般消費者が自衛するためには、信頼のできる店で買うことくらいしかないということ。
不正をしている事業者が自ら不正をしているとは申告をしないからあくまで時折耳にする噂だけれど、この有り得そうだと思わせる話とは、次のようなものだ。
通販会社に大量の真珠のネックレスを卸している事業者が、花珠鑑定書を発行している会社に鑑定を依頼する。花珠とグレードされる商品も、されない商品もある。花珠とグレードされる商品は幾度も鑑定機関に持ち込まれて、それで得た余分の花珠鑑定書が、花珠にならなかった商品に添付され、花珠でない商品までもが花珠として流通する。
実際、花珠と呼ばれる高品質な真珠が取れる一般的な確率と水揚げされた真珠総数から類推される花珠の総量よりもずっと多くの真珠が流通している実態を考えると、さもありなんと思わせる話だ。
仮にこのような不正が行われた場合、消費者はお手上げだ。鑑定書が確かにその真珠を示しているかどうかを判断することができないのだから、消費者としては確かな目をもって自分で品質を判断できる(花珠鑑定書がついた真珠を仕入れたとしても、それが正しいかを自分でダブルチェックできる)知識を持ち、且つ誠実な商売こそが繁栄の秘訣だと心得ている良識のあるジュエラーから購入することが唯一の自衛手段となる。
安いものには安いなりの理由がある。
by 福本 修