21世紀の提言 - IJT雑感
26日から開催されていたIJT。今年は何年かぶりで4日間通いました。会場は昨今の宝飾品市場の影響もあってか、やや手狭になり、その上高級雑貨と時計のパビリオンができたので、ますます宝飾品業界の貧困さが浮き彫りになったように思います。
しかし入場者は反対に4日間通じて、増えたのではないでしょうか。相変わらず真珠や色石関連のブースには人だかりが多く、製品のブースにはよほど興味が無いと人だかりはしていなかったように感じられました。
今回の展示会でいくつか興味を引いたものがありました。ひとつは甲府のメーカーKが「JIZAI」というブランドで、面白いジュエリーを展示していました。私はこのところ自在置物に傾倒しており、その関連で何人かの方とも知り合う事ができたのですが、流石に同じような事を考えている人はいるもので、完全に先を越された感は否めません。
しかしながら、仔細に商品を観察する事ができたのですが、私が考えている自在ジュエリーとは些か世界が違うような気がしたのは幸いでした。現在何人かの作家の方に自在のテイスト含めたジュエリーの制作を依頼しており、それらの形が見えるようになってくると、はっきりしてくると思います。
自在置物は昆虫や虫の超リアルな世界を金属で表現したものです。この超リアルと同じレベルで写実という視点で見ると、千葉県に日本で初めての写実美術館ができたのですが、私はまだ訪れていません。最近色々な分野で、写実が見直されてきているように感じます。ジュエリーの世界も、一頃のリアリズムが影を潜めていたのですが、もしかするとリバイバルの兆しが出てくるかも知れません。もっとも写実的なジュエリーの制作はそんなに簡単にはいかないので、誰でもできるというものではありません。似て非なるものはCADの発展もあり、数限りなくでてくるでしょうが、精度の高いものは果たしてどうでしょうか。
今回製品で面白いと感じたのはKのブースでした。大手の企業だけあって、現在のトレンドを調べ、いくつかの観点から提案型の新作を展示していましたが、いくつか参考になるものがありました。
真珠ではやはり天然真珠でしょう。コンクはもはや貴重品ではなくなりつつあり、今回もいくつかのブースで見る事ができました。その中でもレベルの高かったのは御徒町のM真珠のコレクションでしょうか。タイラギやアワビ、ホタテなどの逸品が陳列されていました。アワビはカリフォルニアとニュージーランドで産出されますが、貝の種類が些か異なります。
変わったところでは、S真珠がマベのラウンド、ゴールデンを陳列していました。お気づきの方もいらっしゃるでしょう。マベはご存知のように半円(半径)真珠ですが、何年か前からラウンドに近いものを養殖するようになりましたが、色とテリの無さと云う点で私はあまり評価していません。今回のゴールデンも貴重品と云う点では見るべきものがありましたが、真珠の品質と云う点になると、首を傾げざるを得ません。
ところで先ほどのM真珠のブースでは、淡水のバロックを見る事ができました。このバロックはテリといい、色といいかなりのものです。中国産の淡水もここまで良いものができるようになった事は驚きです。また神戸のPEが唯一ケシの品揃えをしていました。この会社は香港でも常連ですが、IJTでは初めて見ました。現在品質の良いケシは市場からなくなってきており、このようなケシの良いものが見られるのは幸運です。
反対にダイヤモンドや色石は殆ど見るべきものがなかったように思います。香港やバンコクなどに行くと、ものすごい逸品ものが展示されていますが、残念ながら日本では殆ど見る事ができませんでした。海外からの出展もみな小さなところばかりだったような気がします。ダイヤモンドや色石は完全に市場が違うのではないか。このようなところにも日本が国際競争力から取り残されているのを感じます。
海外のブースでは、やはりイタリアブースの製品が目に留まりました。全体にジュエリーのデザインは一歩先んじていると思います。しかしながらイタリアは日本の市場に対してどのような認識を持っているのか。2、3のブーで聞いてみましたが、私の意図を理解していないのか、はっきりした返事はもらえませんでした。
ドイツやフランスは小さくまとまっており、まだまだ日本の市場で競争するレベルではないようです。香港や韓国なども日本市場をそれほど重視しているとは思えず、それは大手企業が出展していない事でも判ります。
デザイナーブースでは一人の作家と出会う事ができました。これからどのような付き合いができるか、楽しみの一つです。しかしながら全体に低調で、人を唸らせるような提案をしているデザイナーと出会う事はできませんでした。
今回のIJTは初日、二日は中国人の招待客でごった返していたと云っても過言ではないでしょう。その中には半分以上が一般の消費者が混じっており、ブースでは明らかに小売で、値切りの交渉が声を大にして行われていた事も見逃せません。
数年前から日本の小売店の個客でしょうか、一般消費社の入場が目立ち、業界内では物議を醸し出していますが、これは完全に既成事実になっています。私は時代の流れからして止むを得ないと思いますが、このようななし崩し的なやり方は如何なものでしょうか。そろそろ宝飾品業界のはっきりした方針が出てくるべきではないかと思うのです。
IJTは相変わらずバイヤーの姿は少なかったように思います。数年前からこのような展示会には海外からのバイヤーが精力的に動き回っていなければ、真の国際競争力が身に付いたとは云えず、その事は事ある毎に様々な場面で云ってきましたが、完全に伸び悩みでしょう。苦肉の策が中国からの団体観光客では、本末転倒と云わざるを得ません。
確かに現在の世界をリードしているのは中国とインドですが、こと宝飾品ビジネスになるとまだまだ弱小企業の日本が出る幕はありません。日本の大手企業がビジネスとして本格的に乗り出していかなければ、将来性は無いと思います。中国やインドのダイナミズについていけないからです。
日本の宝飾品市場もどんどん縮小化傾向にあり、入場者は多いけれど素材や特価品などの半端な買い物しできない、いまの宝飾品市場。将来が明るモノとなるのはいつの事でしょうか。それまで私たちは何を考えどうしていけば良いのでしょうか。この答えは、今回のIJTでは見つける事はできませんでした。
増渕邦治(ますぶち くにはる)
ますぶちstyle ホームページ